心臓病の部屋

今回のテーマ<たこつぼ型心筋症>

 たこつぼ型心筋症は精神的・肉体的ストレスを誘引とし、一過性の特徴的な心機能障害を呈する新しい概念の心筋症です。
 発作時の左室造影所見がたこつぼに類似する急性疾患の報告は従来日本からの症例報告が主体であったため、本疾患はわが国特有のものではないかとの推測も行われた時代がありました。2000年以降海外からの報告も急増し、現在では多数例の臨床研究が続々と報告されており、心臓病関係の学会ではホットな話題となっている病気のひとつです。  自覚症状としては、胸痛が最も多く、その他、呼吸困難、動悸、全身倦怠感などがあります。身体的・精神的ストレスが特徴であり、かって地震を契機として急性心筋梗塞の頻度が急増することが報告されましたが、心電図所見の類似性などから、少なくともその一部は本疾患であった可能性が高いといわれています。
 たこつぼ型心筋症の壁運動異常は、心尖部収縮障害と心基部過収縮が典型的とされています。



 本疾患の院内死亡は少なく、最近米国から報告された24,701例のたこつぼ型心筋症の院内死亡は4.2%であったと報告されています。死因の多くは、発症の引き金となった基礎疾患による非心臓死が多く、米国からの多数例の報告では、死亡例の81.4%に急性腎不全、呼吸不全、脳卒中、非心臓手術などが関与していたとされています。
 急性期には、自覚症状、心電図、心エコー検査である程度の診断は可能で、緊急心カテーテル検査で、正常冠動脈でなおかつ特徴的な左室造影所見が見られれば、診断に至ることが可能です。多くの場合は、合併症なく経過するので、そのような場合は経過観察のみで良いとされています。
 たこつぼ型心筋症の発症メカニズムとしては、冠攣縮、プラーク破綻、交感神経異常、微小循環障害、女性ホルモン欠乏などが挙げられてきましたが、冠攣縮やプラーク破綻などの関与は最近の研究から否定的とされています。やはり、交感神経説が最も有力で、古くからカテコラミンの過剰投与や動物実験でのストレス負荷などでたこつぼ型心筋症類似の病態を呈することが知られており、その傍証ともなっています。また、本疾患は閉経後の女性に圧倒的に多いことから、エストロゲン減少による心保護効果の欠如が強く関与している可能性が高く、中枢神経系にもエストロゲン受容体が存在することから、交感神経活性化と相俟って酸化ストレス亢進・血管内皮異常などを介して心筋障害に繋がる可能性が考えられています。




参考:吉川勉、たこつぼ型心筋症 日本内科学会雑誌 Vol.103 (2014) No.2 p.309-315,doi:10.2169/naika.103.309